Research
フリーダムが導入したVR
意義と役割をVR研究の第一人者が語った
設計者と施主をつなぐVR
イメージの共有により、家づくりがスムーズに
2017年よりフリーダムでは、施主との打ち合わせにVR (バーチャルリアリティ)を導入。施主はヘッドマウントディスプレイを装着することで、これから建てられる邸宅の内部を見学し、自由に歩き回る疑似体験が可能になった。家づくりにおいてVRはどんな役割を果たすのか。1級建築士の資格を有し、VR研究の第一人者である岡山理科大学・馬淵大宇氏に聞いた。
馬淵「これまで家づくりの打ち合わせは、図面やCGパースを用いて行われてきました。ですが、設計図を見慣れていない一般の方には、家の完成形をイメージすることがなかなかできない。CGパースを見せても、実際のサイズ感や細部を想像することは難しかったのです。そのため家づくりの打ち合わせは、設計士が説明し、施主が承諾するという一方通行の流れが一般的でした。でもVRを用いれば、設計士と施主が共通のイメージをもって意見を交わし合える双方向のやり取りが可能。自分の思いや要望を気兼ねなく言えるようになったのです。」
VRの有効性は科学的にも証明されている。馬淵氏はVRで作成されたモデルハウスを用いて、物件に対する理解度・関心度の評価テストを実施した。
馬淵「理解度テストでは、モデルハウス内に配置された物の有無や位置などを正確に把握する能力を調査。関心度テストではVR観覧前後の関心の変化率を調べました。その結果、VR上で部屋を自由に観覧する場合に比べて生活行為を伴う観覧をすると、部屋がどのようにつながっているかなど一部の理解度の向上がみられました。理解が深まることで、物件に対する興味や関心もおのずと高まることが期待できます。さらにVR観覧中は、施主から感嘆を伴うコメントが多く出てきました。“わー、すごい”“これ、いいね”など、素直な感情が表れる。お客様が豊かな等身大の体験と共に設計案を理解できるのです。」
一戸建ての分野でVRをいち早く導入したフリーダム
業界を牽引する役割にも期待したい
クライアントのニーズを丁寧に汲み取ることが可能なVR。ゲームやエンタメ業界では導入が早かったが、建設業界ではそれほど馴染みがない。
馬淵「オフィスビル一棟など、大型の案件では導入例がありますが、一戸建ての注文住宅ではまだまだ少ないのが現状です。というのも、機器の価格は以前よりは大幅に下がってきていますが、住宅設計に導入する場合、ハードとソフトをVRが運用可能なシステム環境として統一する必要があり、その障壁は大きい。機器やシステム環境を揃えられたとしても、プレゼンを円滑に行えるよう、スタッフのオペレーション能力を養っていく必要もあります。現在、一戸建ての注文住宅にVRを導入しているのは、大手ではフリーダムしか思い当たりません。建設業界を進化させる意味でも、フリーダムへの期待は大きいですね。」
クルマは購入前に試乗できるが、家は試せなかった
VRによって家づくりの常識が大きく変わる
VRを体験した施主からは、具体的にどんな声が聞かれるのか。
馬淵「動線がわかりやすい、部屋のサイズや把握しやすいといった感想が多いですね。キッチンからランドリースペースまで何歩くらいで行けるのかなど、実際の生活に則した距離感がつかめます。さらにVRは季節や時間の変化にも対応。時間ごとの陽光の入り具合がチェックできるので、事前に部屋の使い方もイメージすることが可能です。」
家の完成後には、ほとんどのお客様が「VRで見た通りの仕上がり」に驚くという。
馬淵「VRは設計図とリンクして自動的に作成されますので、ほぼ“見た通り”に出来上がるのは当然のこと。それでも大部分の施主がVRそのままの仕上がりに驚いて声を上げます。『VRで見たのと同じだ』と。クルマを購入する場合は、事前に試乗することができます。でも、住宅はクルマ以上に大きな買い物であるのに、試すということができませんでした。VRはそれを可能にするシステムです。私は家づくりにおけるVRの使用 を今後、“試乗”ではなく、“試住(しじゅう)”と呼びたいと思っています。VRによって家づくりは、家という物を買うのではなく、暮らしを手に入れる楽しみに変わったといえるのではないでしょうか。」
馬淵大宇
一級建築士・岡山理科大学工学部建築学科講師
早稲田大学建築学専攻修士課程修了、博士後期課程満了の後、同大学院にて博士(建築学)を取得。国立高専機構釧路高専建築学科 助教などを経て、現在は岡山理科大学で講師、広島工業大学で非常勤講師を務める。